さて、今までよく言われてきた「円安は日本の国益だ!」という論理は正しいのでしょうか? 円安がGDP(国内総生産)に与える影響を検証してみました。
GDP(国内総生産)=家計消費+設備投資+政府支出+純輸出(輸出−輸入)
このうち、「個人消費、設備投資、政府支出」は日本国内での経済活動です。円安や円高の影響を最も受けるのは純輸出です。
もう、日本の経済構造は1980年代とは異なるのです。日本が貿易黒字国であった時代は、円安により輸出金額が増えて、これにともない日本のGDPも増えたでしょう。これは過去の話です。
今や日本は貿易黒字国ではありません。日本の貿易黒字はゼロ近辺で貿易赤字に転落することも珍しくありません。
【出典】2022年01月20日の時事通信ニュース “21年の貿易収支、2年ぶり赤字 資源高騰で輸入額膨らむ―12月、輸出入とも過去最大”
https://www.jiji.com/sp/article?k=2022012000314&g=eco
経済学者や経済評論家の多くが高年齢で、1980年代の貿易黒字だった頃の日本経済の幻影を引きずったままです。最新の経済構造に頭を切り替えることができていない。
円安で輸出企業が受け取る金額が増えても、円安で輸入企業が支払う金額も増える。日本全体でみればプラスマイナスゼロです。貿易赤字の場合はプラスマイナスゼロどころか、マイナスの影響を日本のGDPに対して与えてしまう。
円安になれば輸出が増えるのかどうかも検証してみます。日本の代表的な輸出商品である自動車市場を見てみましょう。
【出典】2014年9月8日 三井物産戦略研究所 “円安下でも増えない日本の自動車輸出”
https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/1221286_10674.html
円安や円高で金額ベースでの輸出入は増えたり減ったりする。でも、円安でも輸出台数は増えない。高度経済成長の頃のような、日本が不況なら輸出をするといった「輸出ドライブ」の時代は1980年代に終わってる。失われた30年が経過しても、貿易黒字だった頃の日本経済のイメージから抜け出せない人達がいる。
今の日本は円安で金額ベースで輸出が増えますが、輸入品に支払う金額も増えるので、純輸出(輸出金額−輸入金額)は増えません。円安で数量ベースの輸出が増えることも起こっていません。
トヨタ自動車などの会社は円安で好決算になります。日本の自動車メーカー国内で作る自動車は、失われた30年で横ばい。むしろ、減少している。国内販売は減少を続け、輸出は基本的に横ばいです。増えたのは海外工場です。
海外工場がトヨタ自動車などの好決算を支えているわけです。日本のトヨタ自動車がアメリカの現地工場で生産し、アメリカで現地生産した自動車をアメリカ国内で販売する。日本のGDPが増えていると思ったら大間違いです。アメリカで生産しアメリカで販売した金額は、アメリカのGDPの増加にカウントされます。
アメリカのGDPは増えても、日本のGDPは増えないのです。
海外であげた利益を日本に送金してくれば良いじゃないか! こんな論理が通用したのは2020年までです。日本は貿易赤字だけでなく経常赤字に転落し始めたのです。
【出典】2022年5月5日 ダイヤモンドオンライン “日本の経常収支「赤字定着」の危機、円安スパイラル阻止は政治の最重要課題”
https://diamond.jp/articles/-/302587
海外であげた収益を日本に送金する構図というのも崩れ始めているのが現状です。まだ、年単位で経常赤字には転落していないが、経常赤字への転落は想定しておかなくてはならない事態です。
「円安が日本の国益だ!」とは言えない時代になってきた。いまだに昭和の時代の価値観を引きずる人が円安をあおっている。円安が物価高をもたらし国民の生活に大きな影響をおよぼすようになってきた。円安のデメリットにも注目しなければならな時代になったのでしょう。